北海道のラーメンと言えば、昔から札幌の味噌ラーメンと函館の塩ラーメン、そして旭川の醤油ラーメンが有名ですよね。最近ではラーメンブームに乗っかって、弟子屈ラーメンのような新しい勢力が台頭してきている感もあります。
そんな中、全国区となった人気ラーメンの影に隠れて、地域にゆっくりと浸透してご当地ラーメンの地位を確立した「カレーラーメン」というものが北海道にあります。今回ご紹介するのは、そのカレーラーメンの発祥として知られるお店。派手さはありませんが、このラーメンも全国に広まっておかしくない実力を持った一杯でした…
苫小牧の味の大王 総本店で誕生したカレーラーメン、苦しい時代を経て北海道のラーメン地図を塗り替える第4勢力に発展
カレーラーメンが誕生したのは、北海道苫小牧市にある味の大王という名のラーメン店。今から50年以上前の1965年、当時勢いのあった札幌味噌ラーメンに対抗するための看板メニューを模索していた当時の店主が、一般人に人気のカレーライスとラーメンを合わせたカレーラーメンを開発したのです。
ところが、この試みは大失敗に終わります。カレーラーメンはキワモノ扱いされ全く売れず、長い間ラーメン界の表舞台に立つことはありませんでした。それでも決して諦めずにメニューに載せ続けた結果、徐々にカレーラーメンの注文が増えていき、有名ラーメンの影に隠れながらもカレーラーメンはじわじわと苫小牧市を中心に広まっていきました。
一方、初期の厳しい時代に味の大王に惚れ込んで弟子入りした1人の男が、カレーラーメンのレシピ等を学んで1971年に室蘭で独立開業したのが室蘭カレーラーメンの元祖・味の大王 室蘭本店。苫小牧のカレーラーメンとは違うスタイルのカレーラーメンを提供していましたが、残念ながらこちらも1日数杯程度の注文しか取れませんでした。
そんな中、室蘭出身の元モーニング娘。の安倍なつみがラジオで味の大王を紹介したことで、室蘭カレーラーメンの知名度が一気に向上。今では室蘭市公認で全国的に情報発信が強化され、北海道のラーメン地図を塗り替える第4勢力として注目を集める存在になっています。
というわけで、知名度では室蘭にお株を奪われてしまった形の苫小牧カレーラーメンですが、歴史的に見れば紛れもなくこちらが元祖。そのカレーラーメンの元祖の味を体感すべく、ある日の午後に苫小牧の味の大王 総本店に向かったのでした…
森の中のドライブイン的な存在の味の大王 総本店、お昼過ぎでもお客さんがマイカーで続々入店
味の大王 総本店があるのは、苫小牧市街地から遠く離れ、四方を木々に囲まれた森の中。新千歳空港方面に向かう幹線道路沿いにあり、お店の目の前がバス停なので助かりますが、僕のような野次馬がふらりと訪問するには非常にハードルが高いところにあります。地元密着のラーメン店というよりも、ドライブイン的なイメージの方がしっくりくるお店です。
店内には広くゆったりとしたテーブル席を中心に、50人くらいは入れるスペースがあるでしょうか。すでにランチタイムを大きく過ぎた時間帯ですが、マイカーで続々とお客さんがやってきます。周囲に飲食店がないという事情があるにせよ、ここが地元の人に愛されているということはよくわかります。
入り口すぐのところにある券売機で食券を購入。購入した食券と引き換えにアラームが渡され、注文した品が出来上がると呼ばれます。配膳や片付けなどはセルフサービスで、例えるならショッピングモール内のフードコートのようなシステムですね。カレーラーメンと餃子2種類を注文して、テレビを見ながらのんびりと待つことにします。
カレーラーメン:北海道第4のラーメンの原点がここに!そのお味は…
食券を渡して約15分、渡されたアラームが鳴り出しました。カレーラーメン(お値段 税込860円)が先にでき上がったようです。札幌味噌、函館塩、旭川醤油に続く北海道第4のラーメン、その原点となる一杯は…
カレー色のスープに豚バラチャーシュー1枚、もやし、わかめ、刻みネギのトッピング。街中のラーメンと比べると素朴感が満載ですが、逆に言うとそのビジュアルに長い歴史が感じられます。
まずはスープから一口…一言で表現するならば、昔どこかで食べたことがあるような素朴で懐かしい味。辛さが中辛程度あってちょいスパイシーですが、おうちカレーにも通じるような、とっても親しみやすい味がします。
その親しみやすさの秘密は、カレーペーストに合わせる濃厚豚骨スープでしょうか。カレースパイスにより豚骨臭さは一蹴されて、旨味だけが残ってスパイスと見事に調和しています。スープにしっかりしたとろみがついていて、このままライスにかけてカレーライスとして食べても成立するような濃厚な味。これだけのスパイスに負けない旨味を出しているのですから、きっと豚骨スープも相当な濃厚さなのでしょう。
これに対する麺は、これまた素朴な感じのする中太ストレートの卵麺。とろみのついたスープとしっかり絡み、口の中ではもちもち食感…なんか、カレーうどんにすごく近いですね。カレーうどんのラーメン版という表現が、このカレーラーメンには合っているような気がします。
ただ、どこにでもありそうな素朴さを醸し出していながら、そう簡単には真似できないような洗練された部分も同時に感じるんですよね。普通にカレールーとして使えるくらいの味を残したスープに、違和感を全く感じないほどうまくスパイスに溶け込んだ豚骨の旨味…単に濃厚豚骨スープにカレースパイスを混ぜたらでき上がるといった単純なものではないはずです。
そういう部分に、50年以上地域で生き残ってきただけのしっかりとした土台を感じます。派手さはないけれど、堅実な実力を蓄えたラーメン。例えるなら、ホームランバッターではなくてバント職人・守備職人といったイメージ。流行りのラーメンを追い求めるのも良いですが、こうしたいぶし銀的なラーメンも正当に評価される世の中であってほしいと僕は思います。
ホッキ餃子とキトビロ餃子:味の大王が開発した2種類のオリジナル餃子を食べ比べ
続いて、味の大王が開発した2種類のオリジナル餃子を食べ比べ。まずはホッキ餃子(お値段 税込450円)から…
市販の餃子より一回り大きく、おいなりさんのような形をした餃子が熱々の鉄板の上にゴロッと横たわっています。
皮を破ってみると、餡の8割は豚ひき肉ですね。ニラやキャベツなどの野菜はほぼゼロ。そのひき肉の所々にホッキ貝が混ざっているのですが、豚肉色に染まってしまって上の画像ではよくわかりません。
これだけ豚肉が詰まっているので、さすがに肉の旨味は濃厚。そこにホッキ貝のシコシコした歯触りがアクセントとして加わります。ただ、個人的な感想としては、ちょっと肉多過ぎかな…餃子というより、皮付きの肉団子を食べているような感じ。
この餃子を食べたことで、逆に普通の餃子に入っている白菜やニラといった野菜の役割がよくわかります。普通の餃子のタレだと豚肉の旨味に負けてしまうので、ラー油を追加するとか、少し濃い目のタレを用意するとかして、ご飯と一緒に食べるのがいいのではないでしょうか。
そしてもう一方のキトビロ餃子(お値段 税込450円)。キトビロとは行者ニンニクのことで、こちらも北海道の特産品の一つです。
中の餡はこんな感じ。豚肉に混ざって、行者ニンニクの茎が入っています。
さすが普通のニンニクよりもニンニク臭が強烈と言われる行者ニンニク、豚肉の濃厚な旨味を覆い尽くして余りある存在感を発揮しています。食後に大事な人と会う予定のある人は、食べるのをやめておく方がいいですね。
やっぱり豚肉の旨味が濃厚なので、ご飯と一緒に食べるなら濃い目のタレを用意しておくほうがいいでしょう。ただ、ビールのつまみとしては思いっきりハマるでしょうね。ちょっと変わったビールのつまみをお探しなら、このキトビロ餃子を一度試してみる価値はあると思います。
行くならレンタカーかバス利用を強く推奨!味の大王 総本店へのアクセスは、JR室蘭本線・沼ノ端駅から道南バス30番系統千歳空港線に乗り換え白鳥湖バス停下車
まさかこの記事を読んでいる人の中で、僕と同じように聖地巡礼をしようと考えるムチャな人はいないと思いますが(個人的にはそういう人大好きですけどね)、もし本当に行くならレンタカーかバスの利用を強くおすすめします。最寄り駅からは3km以上離れていますし、道中熊が出てもおかしくなさそうな場所が多々ありますので…
それでは、お店の詳細です。店舗データはこちら…
ちなみに、2021年4月から週末と祝日に朝ラーメンの提供が始まったようです。まあ、僕たち旅行者にはあまり関係なさそうですが、念のため…
P.S. もう一つ、苫小牧のご当地グルメで有名な店をご紹介…
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