今年度初めてのおでんはここにしようと心に決めていたお店。麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)とは、京都で有名なお出汁の専門店「うね乃」が運営していたおでん屋です(令和5年4月8日から事業引き継ぎで現店名に変更)。鍋とともに日本の冬を支えてきた和食のおでん。しかし、実際調理するのはイタリアン上がりの料理人。一体どんなおでんになるのか、興味津々です…
麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)|お出汁の名店とイタリアンの料理人がタッグを組んで提供するおでん…そのお味はいかに?
その麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)ですが、実は心理的に近寄りがたい場所にお店があります。三条から麩屋町通りを北に向かって歩き、右側に現れるちょっと古びた雑居ビルの1階奥。本当にこんな所に飲食店があるの?と気後れしてしまうのですが…
通路を奥に進むと、確かに鉄の扉に「麩屋町うね乃」と小さい表札が掲げられています。でも、中の様子がまったくわからないので、まだまだ警戒心が解けません。扉に耳を当ててみますが、中の音も全然聞こえませんし…
覚悟を決めて、扉をノックして中に入ります。すると、その先は通路が左に折れ曲がっていて、そこから5mほど奥に進むとようやく客席に到着。ここでやっと「あ、間違ってなかったんだ」と安心できました。
客席は厨房を囲うようにカウンター席が12脚。入った瞬間から、ふんわりと鰹出汁の香りが鼻に届きます。ポップなBGMが流れる店内には、年配の方はもちろん、結構若い女性のお客さんも多いですね。入り口にさえ戸惑わなければ、誰でも気軽に食事できる雰囲気はありますよ。
と思ったら、戸惑うことがもう1つ。下のメニューをご覧ください…
なんと、おでん種のメニューに値段が書かれていません。これは高級寿司屋と同じように、お会計で眼玉が飛び出るオチが待っているパターン?あいにくこの日、僕の財布の中には1万円ほどしか入っていません。
ちゃんと払えるか?と心配になって、お店の人に聞きました。おでん種は安いもので300円ほど、一番高いのが「おにく」で1800円ということでした。これで、ある程度値段が計算できるようになってホッと安心。ノンアルコールビールを飲みながら、おでんを1つ1つつまんでいくことにしましょう…
イタリアンの料理人が作る麩屋町103のおでんは、新しい発想を取り入れながらも和の道を外さない正統派
それでは、麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)で食べた全品を、順を追ってご紹介します(注:当記事は麩屋町うね乃時代に訪問した時のものです)…
大根
まず最初にいただいたのはおでんの定番・大根。中から出てくる大根の水分で、冷えた身体を一気に暖めます…
煮すぎてしまうと形崩れしてボロボロになってしまう大根ですが、この大根は美しいフォルムを保つ十分な硬さがあります。かと言って生煮えでもなく、抵抗感を感じながら箸を入れると、お出汁の色に染まった断面から大根のエキスがにじみ出てきます。
これを口の中に放り込んでじっくり咀嚼。瑞々しい大根のエキスと隅々まで行きわたった上質なお出汁が混ざり合って、優雅な香りを口の中に広げてくれました。
たまご
表面がお出汁の色に染まったたまご。ちょっとよく見ると、表面に包丁で切れ目が入っています…
大根もそうでしたが、箸で割りやすいように、盛り付けの時に軽く包丁を入れてくれるんです。おかげで大きい具材も一口サイズに分けやすくて、本当に助かります。
たこ
たこの足を丸々1本使ったおでん。お出汁に入れる前に醤油で煮てあるので、薄味のお出汁の中で一際目立つ濃い味付けです。
肉の線維が切れるまでじっくり煮込んであるので、味の染み込みもさることながら、口の中でホロホロと崩れていくような柔らかさがあります。例えるなら、しっかり煮込んだ鶏肉の食感に近いものがあります。
とうふ
濃厚なたこのおでんとは打って変わって、水抜きした絹ごし豆腐にお出汁をかけて、おろしたての鰹節をまぶしていただくあっさり薄味の一品。
絹ごし豆腐のプルプル感を残しながら、箸でつまんでも崩れないしっかりした豆腐。出汁と削り節の風味を、神経を研ぎ澄ませていただくことにしましょう…
白菜
これを注文した時、出汁をしっかり吸わせてクタクタの白菜を想像していたのですが、出てきたものは全くの逆でした…
出汁に軽くくぐらせただけで、シャキシャキ感を残した白菜。出汁よりも素材の味をそのまま味わう感じです。その上にふりかけられているのは、京都のデフォルト調味料である山椒。これがまた良い香りをしてるんですよね…
きんちゃく
見た目はごく普通の餅入りきんちゃく。しかし、きんちゃくを箸で割ってみると…
この画像ではわかりにくいと思いますが、餅の下に何やら黒っぽい調味料が隠れていて、これが一気にお出汁に溶け込むように広がっていきました。舐めてみると、独特の塩気と甘みを兼ね備えた味噌のような味が…
ご主人に確認すると、京田辺市の一休寺というところで作っている一休寺納豆というものらしいです。とんちで有名な一休さんにゆかりのある納豆。納豆とは言っても、あの糸を引く納豆ではなく、味噌や醤油の原型と言う方が適切のように思います。
じゃがいも
断面を見てひと目でわかりますが、このじゃがいもも中心まで出汁が染み込んで、しっかりと熱が通っています。にもかかわらず、箸を入れると結構な抵抗感があり、断面からも実がポロポロと崩れたりすることがありません。
ご主人いわく、このじゃがいもは北海道産の熟成じゃがいもを使っているのだとか。最近どんな食材にも「熟成」という言葉をつけるのが流行っていますが、じゃがいもを熟成させるとどんな味がするのだろう?と思いながら口に放り込むと、一瞬「サツマイモ?」と思わせるような香りと甘みが口の中に広がります。
この辺りで創作系おでんもご紹介…でも残念ながら、麩屋町うね乃の名物とも言える「カチョカバロチーズ」売り切れてしまったとのこと。次回リベンジすることとして、まずはあるものを楽しむべし。
ポテサラ
ロールキャベツの脇にポツンと添えられた、ゴルフボール状のおでん種。これがフードブログでも紹介されている、麩屋町うね乃の創作おでん「ポテサラ」です。
箸で割ってみると、白身魚のすり身の中央に少量のポテトサラダが。塩加減がやや強めの洋風な味つけで、淡白な魚のすり身に対するアクセントになっています。
ロールキャベツ
ロールキャベツのおでんは、創作系おでんの中ではかなりポピュラーな方でしょうか。すでに一定の市民権を獲得したかのように思えます。
断面をみると、ほとんどがキャベツですね。十分にお出汁を吸っていて、でも吸い過ぎてクタクタまで行かず、キャベツのシャキッとした食感も残っています。
そして、断面の一番下のところに見えるのが、コンビーフとチーズ。薄味のお出汁一辺倒ではなく、ちょっと一癖加わった一品です。
湯葉汁
ご主人に「おでんではなく、お出汁をじっくり味わえるもの、何かありますか?」と聞いておすすめされた、メニューにはない一品。他にもメニューに書いていない料理を多々隠していると思われたので、食べたいものがあれば遠慮なくご主人に聞いてみるといいでしょう。
生湯葉にお出汁をかけてあんかけで閉じ、最後に一休寺納豆を一粒。「よくかき混ぜて召し上がってください」とのご主人のアドバイスに従って、備えつけのスプーンで一休寺納豆がほぐれるまでかき混ぜます…
これは、麩屋町うね乃に来たらぜひお試しください。とろとろの生湯葉が心地よく、そこにほんのり香る一休寺納豆の独特の風味…出汁そのものを味わうという本来の希望通りではありませんでしたが、これは嬉しい誤算です。
ここまでで入店から1時間半ほど経過。そろそろお腹も満たされてきたし、〆に向かっていきましょうかね…
おにく
牛の塊肉を塩と胡椒でシンプルに味付けし、表面に焼き色をつけてアルミホイルで寝かせ、お皿に盛り付けて最後に自慢のお出汁をひとかけ。こうして麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)の最上級メニュー「おにく」が出来上がります。
本当に口の中でとろけるほど柔らかく、上質な肉であることはすぐにわかります。牛の脂肪がとろけてきますし、塩胡椒の加減も絶妙です。
肉そのものも、焼き加減も間違いなく素晴らしいのですが、「わざわざおでんにしなくても良くない?」と言われれば、確かにその通り…
牛すじカレー
そして〆の一品、牛すじカレー…
小さな器からスパイスの香りが舞い上がります。食べてみると予想通り結構スパイシーなのですが、それよりも(おそらくですが)トマトの酸味が前面に来ていてスッキリとした味わいです。
そのカレールーに染み出した牛すじのエキスで、スパイシーなカレーにほんのり甘味をプラス。〆の一品としてではなく、これだけをガッツリ食べたい気もしてきます。
以上でオーダーストップ。…総じて、イタリアンの視点が活かされつつも、大きく和の道を外れることなく正統派のおでんだったように思います。思いっきりフレンチにアレンジしてしまった大阪の赤白とは違う路線というか…どこか大阪と京都の土地柄の違いが反映されている気もします。
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それにしても、結構食べましたね。そこで気になるのはお会計。メニューに値段が表示されていなかったおでん種、いくらかかったのか楽しみでもあり、ちょっと怖くもあり…。
それでは、この日のお会計を発表します。上記おでん10種に湯葉汁、牛すじカレー、そしてノンアルコールビール1本。気になるお値段は…
税込 10285円
予想以上に調子に乗って食べすぎたようです。でも、このお値段で心は十分満足です。お出汁もさすがの美味さだったし、今まで知らなかった食材にも出会えたし。さ、気持ちを新たに、しばらく摂生しよっと…
ランチタイムのおでんカレーはもうやっていないのでご注意を…麩屋町103(旧:麩屋町うね乃)へのアクセスは、最寄り駅の京都市営地下鉄・京都市役所前駅から徒歩3分
最後に1つだけ、あなたにお伝えしておくことがあります。ネットで麩屋町うね乃を検索すると、ランチタイムに「おでんカレー」を提供しているという情報が出てきますが、2020年1月現在ランチタイムの営業はしていません。この点、ご注意ください。
僕も以前、おでんカレーを目当てにやって来て食べられなかったことがあったので、直接ご主人に確認しました。ご主人によると、今はもうおでんカレーもなくなっていて、その代わりに誕生したのが、先ほどご紹介した「牛すじカレー」とのことでした。
牛すじからいい出汁が出てるし、スパイシーなカレーでおすすめですよ…
by 店主
と、牛すじカレーには相当の自信を持っている様子。実際、辛いものが苦手でなければ、〆の一皿としてもってこいだと思いますよ。
それでは、お店の詳細です。店舗データはこちら…
P.S. 京都で美味しいおでんをお探しのあなた、ぜひこちらの記事にも立ち寄っていってください…
P.P.S. 大阪にもメニューに値段が書いていないおでん屋さんがあります。こちらは1時間待ち当たり前の行列店です…
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